ヘヴィー#(2)

向かい合わせの席にいつも座る子。

小さなカフェで俺に気づかないあの子が俺はどうやら好きみたいだ。

クリスマスカードを書いているうちに一番あの子に描きたいと思った。俺はあの子の住所も名前も何をしているのかも知らない。ただ、カフェでいつも真向かいに座っている。長いまつ毛と気の強そうな瞳。俺なんかが相手にしてもらえるわけがない、というよりも俺とは真逆の人生を生きていそうだと思っている。相容れないふたりがたまたまカフェで行き合った。それだけだったのに俺はうっかり恋をした。

国籍不明、住所不明、宗教不明。クリスマスカードをグリーティングカードだって送るかどうかさえも迷ってしまう。

聞けば良い、フラれたくらいで死ぬわけがないんだからといつも笑い飛ばしていたのに、そうもいかなくなった。真剣に恋愛をしてきたつもりだけれど、真剣に誰かを欲しいと思ったのははじめてだったみたいだ。

長い髪と、薄い唇、大きな瞳はあまり動かない。いつもブラックコーヒーを頼んで、新聞を読んでいる、英字新聞。

このネット時代にカフェにいる最中はスマホやパソコンを開いているところを見たことがない。

店員とのやりとりを見る限り、日本語は達者なようだった。


指先が青く透き通っていると、赤く腫れている時がある。皮膚が弱いんだ、寒さに弱いんだ。うっかり手を伸ばして温めてやろうとしてしまう衝動性を抑えるために俺は最近カフェに行けなくなった。

スタバとかタリーズとかそういうチェーン店ではなくて、地元のおばちゃんがやっているような小さな個人経営のカフェ、喫茶店っていうほうがいいのかもしれない。


あの子はどんなクリスマスを過ごすんだろう。何もない平日として扱うのか、日本人的に誰かと馬鹿騒ぎするのか、それとも礼拝に行くのか。

何も知らないとなんでも想像できる。だからこそあまり想像しないようにしないと。虚像を偶像化してしまったら俺はまたひとりの人生を歩もうと決めつけてしまわねばならないから。

恋愛は自分を不自由にする、身動きとれなくする。厄介だ。




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