アパルトマン#(2)
過去の恋愛のことはあまり思い出さなくなった。つい数年前まではよく思い出していたけれど、なんでだろう、コロナの影響かな。
コロナになって外にあまり行けなくなって、自分に向き合う時間がそれなりに取れるようになると、過去のことばかり考えていると鬱になるんだ。というか実際、鬱になった。コルドバの頃の友達とはビデオ通話しているけど、肌で感じる温度とか匂いとかそういうものを体感していないと自分にこもってしまうなあって感じている。
俺にとって思い出深い恋も内省を繰り返す中でコロナに焼かれてお焚き上げされた感じ。
いろんな恋愛をしてきたつもりはないけれど、そんなふうに誤解されれきたことは事実。好きな女の子にはどんな気持ちか知らないけれど「ガールフレンドがいるんでしょう?」と言われてきた。日本では「モテそうですよね」と敬遠されてきた。なぜか知らないけれど、ストレートに「好きだ」って言わない。不思議だった。俺はふつうにモテる方だと思う。でも好きだって言われたことは数えるほどしかない。過去の恋愛でひとつだけ、その思い出深い恋愛だけが「好きだ」って言われた恋愛だった。
あれ以来、なんか自分が消えてしまいたくなるような燃えてしまうようなやばい恋愛はしていない。そういえばって思い始めたのは内省がすべて終わった今だから言えることかもしれない。
少しずつ飲みにいくこともできるようになって、さて今年のクリスマスはどうしましょうかって話をみんなでしているときに、ケアンズが俺はパスって言って、ああ彼女ねって察したんだけど、みんななんか不思議そうな顔をしていた。自覚はないけれど俺は察しがいい方なのかもしれない。だから俺のことが好きなら素直に好きって言えよってずっと鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
小さなアパートをアパルトマンと呼ぶ人が近所にいて、品のいいおばあさんなんだけど、そのおばあさんと毎週日曜日にお茶をするのが俺の最近の楽しみなんだ。
かわいい人で、猫とふたりっきりで暮らしている。その姿もまた可愛い。俺のばあちゃんは去年亡くなった。気性の激しい人だったけれど悪い人間じゃなかった、俺も含めてみんなそんなふうに評価している。大正生まれなんてみんなあんなものって。
その近所の品のいいおばあさんのほうは対局で、大正生まれなのにバカに穏やかな人だった。孫娘がいるって聞いたときすごく興味が湧いた。このおばあさんの孫ならどんなにエレガントなんだろうって。
この間写真を見せてもらったんだ。なんかイメージが違った。髪の短いスポーツ万能って雰囲気の子だった。
「これ、お孫さん?」
あえて聞くと、彼女は
「ええ。いちばん可愛い私の初孫よ」と。
オッドアイは写真の光の加減かもしれない。どうなんだろう、今の写真じゃないからなのかな、それとも本当にオッドアイなのかな。
毎日そんなことを考えている。
クリスマスまであと一週間。あの子名前なんていうのかな。。。
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