ペンネーム#⑴

俺たちが都市名をペンネームにしている。俺たちが青春を過ごした土地の名前をそれぞれつけている。俺の場合はモロッコのカサブランカ。綺麗な街だった。日本と比べてしまえば俺にとってすべての街は綺麗だけどね。女性も綺麗だったし、デザインの幾何学模様も俺のお気に入りだったし、海も、それから考え方も綺麗だった。

俺たちみたいな帰国子女や留学生が日本に帰ってきて「海外は良かった」って言うと必ず変な嫌味を言われる。海外経験があることを自慢しているんじゃなくて、海外と比べて日本はこんなところだとただ客観的に意見を言っているだけなのに、なぜか多くの日本人は劣等感からだと思うけれど、自分たちが責められているように感じて、自衛のためにせせら笑う。俺はそういう感覚が海外と比べて日本人はすげえ汚いと思っている。

そのくせ、俺を恋愛対象としている女たちは俺を友達に紹介するときにまず最初にこういうんだ、「彼?なんかあ、モロッコにいたらしい。カサブランカって知ってる?あたしは知らなかったんだけどさw」知らないことをなぜ謙遜みたいに言うのか俺は意味不明だった。聞いていてすげえ不快だった。たとえば、海外に行って「日本にいたらしい。東京って知ってる?俺は知らないけれど」って言われた時どう思う?なんか馬鹿にされた気にならない?

想像力がないやつらだなあって嫌な気分しかしないよね。

親が商社マンだったからティーン時代を俺はカサブランカで過ごした。

ケアンズは、大学の時に6年間留学していた。

コルドバはバックパッカーで17の時にスペインが気にいっちゃって30過ぎまでいたって言ってた。

サンフランシスコは大学からそのまま就職して今は日本の支社に転勤で来ている。

トーキョーは今日本に留学している一応国籍はアメリカ人。じいちゃんやばあちゃん、その上の世代まで遡っていくともう地球上のすべての民族の血が入ってるんじゃねえのっていう男。

ヴィエンチャンは自分が貧しい国の人たちを救うんだって青年海外協力隊でヴィエンチャンに赴いたものの、やることがなさすぎて自信喪失して帰ってきた典型的な日本人。

みんな海外に行って打ちひしがれて帰ってきたのに日本の文化や価値観にはさらに失望させられた連中っていえばカテゴライズできるかな。

だから俺たちはDEAD SCREENって名前にした。見てる世界が死後の世界みたいに絶望でしかないからね。そこに一縷の望みを託している、「これが映画でありますように」。



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